top of page
検索

「18歳の手前から始める“働く”準備:採用の基準と当事者の意識」

4月3日
読了時間: 4分

私たちが「優しさ」と呼んでいるものは、ときに誤解されます。助け続けることが優しさではなく、立てる場を用意し、強みが働ける環境を整えることが—ほんとうの優しさになることがあります。ある外資系企業の障害者雇用の現場で、それが当たり前のように機能しているのを見ました。未来は遠くではなく、すでに実装されていました。


先日、ある外資系企業の障害者雇用の勉強会に参加した。ラフダイとして描いてきた「働く未来」を、その企業はもう体現していた。見学を終えたとき、私は安心と軽いショックの混ざった感覚を持った。理想は机上の理念ではなく、現場の設計だったのだ。

まず、人事の方がはっきり言った採用の基準が印象的だった。「ここは働く場所です。支援はしません。でも、受け入れはします」。冷たく聞こえる人もいるだろう。けれど、この言葉には明確な優先順位がある。仕事の場として機能を保ちつつ、個の強みが最大化されるように受け入れる。そのバランスを崩さないための、誠実な宣言だと思った。


  • 「支援はしない、受け入れる。——働く場の優しさは、境界を守る設計から始まる。」


当事者の側からの言葉も鮮明だった。まず自分の強みを理解すること。そして自分の特性を理解し、それを相手に伝えること。ここで大事なのは「伝える」までが含まれている点だ。理解で止まらず、上司と話し合い、働き方を共に設計していく。発信できることが前提になる。これは自己主張の強さではなく、協働のための情報共有だ。働くことは、役割の往復運動であり、合意形成の技術なのだ。

もう一つ、現場で学んだのは「話し方、言葉遣い」の影響の大きさだ。ある方のプレゼンは圧巻だった。配慮が行き届き、強みを前面に出し、弱みの部分は目立たないようにグラデーション化する。強みをダーンと前に出す、という感覚が伝わってくる。そこは金融の会社だったが、金融ニュースを上げ続ける過集中の特性が、業務とピタリと噛み合っていた。結果として、2023年、2024年と世界規模のニュース記事で成果を上げているという。特性が弱点ではなく、設計次第で競争力になる。それを当たり前にしている現場は、ただの善意の枠を超えている。

この体験を団体の仕組みに落とし込みたいと思った。私たちは「18歳以下」でやるべきことを再設計する必要がある。小学生の段階では、人と関わる楽しさを育てる。中学生・高校生では、話し方や意思の伝え方を練習する。イベントや部活では断片的に経験するが、体系だったトレーニングにはなりにくい。だからこそ、意識的な場がいる。18歳以降は「働く」こと自体を意識する。この一貫した流れを設計することで、現場に入ったときに必要な前提


——自分の特性の理解と、その発信が自然にできるようになる。

「発信できることが前提」というのは、教育の段階から準備できる。話し方は才能ではなく、技術であり配慮だ。自分の強みを言語化し、弱みを目立たせない工夫を覚える。そこに恥はない。むしろ自分の働きやすさを守り、チームに貢献するための責任だ。私たちのプログラムのレッスンにもこれを組み込む。先生とスタッフとの間で役割を明確にし、18歳の手前から段階的に練習できるようにする。


  • 「強みは偶然ではなく設計で立ち上がる。弱みは消すのではなく、目立たせない技術で扱う。」


見学の最後、私は「未来が見えている状況を作る」という言葉を心の中で繰り返した。未来を予言するのではなく、前提を整える。強みを言葉にし、弱みを扱い、働く場のルールと境界を尊重する。支援はしない、受け入れる——その姿勢は冷淡さではなく、信頼のかたちだ。私たちが18歳までに積み重ねられる小さな練習は、やがて現場での大きな自由につながる。

結びにもう一度、最初の現場の姿を思い出す。優しさは、曖昧な助けではなく、明確な設計だった。強みが前へ進み、弱みはグラデーションの中に置かれ、役割が交差し、言葉が通う。その風景を、教育の序章からすでに始める。未来は遠くに置かれていない。私たちは今日から、その前提を手渡せる。

 
 
 

最新記事

すべて表示
音楽で育てる走りの見通しと自信

体力は足りているのに、記録は「1」。その瞬間、子どもの能力が低いのではなく、やり方が見えていないだけだとしたら—何を変えればいいのだろう。走ることそのものより、「どう走るか」を先に渡す。たったそれだけで、数字は静かに伸びていく。 春が近づくと、療育の現場は体力テストに向けた準備で慌ただしくなる。3月から4月にかけて、私たちは“基礎概念のトレーニング”に力を入れる。走る、跳ぶ、投げる—その前にある「

 
 
 
肘を上げる、その前に:体と感覚の会話としての投球

ボールが遠くへ飛ぶ瞬間、誰の目にも見えない“整い”が起きています。力よりも先に、体と目標のあいだで静かな会話が始まり、肘がふっと正しい高さに収まり、手が離れるタイミングが合う。記録が伸びるとは、単に強く投げることではなく、その会話を丁寧に取り戻すことなのだと、私は現場で何度も学び直しています。 体力テストの中でも、ソフトボール投げやハンドボール投げは「目玉」でありながら、基礎概念が抜けているがゆえ

 
 
 
エンタメ療育とTシャツが育む、私たちの物語

あるアイテムが、ただの物以上の意味を持つ瞬間があります。それは、憧れの選手が着ていたユニフォームかもしれませんし、共に汗を流した仲間とお揃いで作ったTシャツかもしれません。一枚の布が、所属と、誇りと、そして「私たちはチームだ」という無言の約束を象徴する。私たちの療育の現場で、子どもたちや保護者の皆さんと一緒にオリジナルグッズを身につけることには、まさにそのような願いが込められているのです。 私たち

 
 
 

コメント


bottom of page