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エンタメ療育で育てる、伝えたい気持ち

8月7日
読了時間: 5分

子どもが何かを伝えようとしている瞬間には、ほんの小さな火種のようなものがあります。まだ言葉になっていないけれど、目線や表情や手の動きの中に、「これを見て」「これがしたい」「聞いてほしい」という気持ちが宿っている。その火を大人が先回りして消してしまうのか、それとも言葉につながるまでそっと育てるのか。発語の支援は、実はそこから始まります。


子どもの発語やコミュニケーションについて、よく相談を受けます。

「言葉がなかなか出てこないんです」

「一語文しかないんです」

「そもそも誰かに声をかける様子があまり見られません」

こうした悩みは、とても多いです。そして、その背景にあるものは一人ひとり違います。

ただ、日々のトレーニングの中で大切にしているポイントがあります。大きく分けると、二つです。

一つ目は、子どもの興味関心を育てること。

二つ目は、「この人に伝えたい」と思う気持ちを育み、それを言える環境を作ること。

この二つは、とてもシンプルに聞こえるかもしれません。でも実際には、とても繊細で、難しい部分でもあります。

なぜなら、言葉はただ教えれば出てくるものではないからです。

まず、子どもの心が動く必要があります。

面白い。欲しい。やってみたい。見てほしい。もう一回したい。誰かに聞いてほしい。

そういう内側の動きがあって、はじめて「伝えたい」という気持ちが生まれます。そして、その気持ちが少しずつ言葉につながっていきます。

言葉の前には、必ず心の動きがあります。

いきなり文章で伝えることができなくても、最初は「ねえねえ」という呼びかけかもしれません。指差しかもしれません。視線かもしれません。手を引くことかもしれません。

そこから少しずつ、「言葉で伝えると伝わるんだ」という成功体験を重ねていく。

その積み重ねが、発語やコミュニケーションの広がりにつながっていきます。

ただ、この場面で大人がやりがちなことがあります。

子どもが何かを伝えたい気持ちを見せた瞬間に、大人や支援者が先にくみ取ってしまうことです。

「〇〇ちゃん、これがしたいんだよね」

「これ欲しいんだよね」

「はい、どうぞ」

もちろん、それは優しさから出る行動です。子どもが困らないように、ストレスが少なくなるように、先回りして助けてあげたくなる。

でも、その経験が続くと、子どもにとっては別の学習になることがあります。

「言わなくても伝わった」

「声を出さなくてもやってもらえた」

「自分から伝えなくても大人がわかってくれる」

こうした成功体験が重なると、言葉を使う必要性が育ちにくくなる場合があります。

だからこそ大切なのは、子どもの「伝えたい」という気持ちが出てきたときに、少し待つことです。

待つというのは、放っておくことではありません。

子どもが伝えようとしている気持ちを見逃さずに、その気持ちが言葉につながるように支えることです。

たとえば、子どもが何かを欲しそうにしている。手を伸ばしている。視線を向けている。

そのときにすぐ渡すのではなく、少しだけ間を作る。

そして、伝えやすい言葉をそっと前に出してあげる。

「ちょうだい、だね」

「もう一回、って言ってみようか」

「やりたい、だね」

子どもが言いやすい形にして、言葉の入口を作ってあげるのです。

そして、実際に言えたときには、しっかり受け止める。

大人が嬉しそうに反応する。周りも一緒に喜ぶ。「伝わったね」「言えたね」「教えてくれてありがとう」と返していく。

この瞬間が、とても大切です。

子どもはそこで、言葉の楽しさを知ります。

伝える楽しさ。

伝わった嬉しさ。

自分の言葉で世界が少し動いたという感覚。

この感覚があるから、次もまた伝えようとする力になります。

発語のトレーニングというと、どうしても「言葉を出すこと」そのものに意識が向きやすいです。でも本当に育てたいのは、その前にある「伝えたい」という気持ちです。

言葉は、心が外に向かって伸びていくときに生まれます。

だから、子どもの興味関心を見つけることが大切です。

何に目が輝くのか。何をもう一回やりたがるのか。どんな遊びで表情が変わるのか。誰に近づこうとするのか。

その子の心が動くポイントを見つけることが、コミュニケーションの出発点になります。

そして、その心の動きを「誰かに伝えたい」という経験につなげていく。

言葉が少ない子に対して、ただ言わせようとするのではなく、言いたくなる場面を作る。伝えたくなる関係を作る。伝えても大丈夫だと思える環境を作る。

それが、日々の関わりの中でとても大事になります。

もちろん、一度で大きく変わるわけではありません。

「ねえねえ」から始まって、指差しが増えて、少しずつ音が出て、一語が出て、やりとりが増えていく。

その一つひとつの小さな成功体験を、丁寧に積み重ねていくことが必要です。

大人にできることは、子どもの代わりに全部を言ってしまうことではありません。

子どもの中にある「伝えたい」を見つけて、それが外に出てくるまでそばで支えることです。

先回りしすぎず、でも置き去りにもしない。

待つ。促す。受け止める。喜ぶ。

その繰り返しの中で、子どもは少しずつ知っていきます。

自分の気持ちは伝えていい。

言葉にすると届く。

誰かが聞いてくれる。

その安心感が、次の言葉を生みます。

発語は、単なる音の練習ではありません。

人とつながる経験の積み重ねです。

だからこそ、私たちは言葉の前にある心の動きを大切にしたいと思っています。子どもの中に小さく灯った「伝えたい」という火を、急かすのではなく、消すのでもなく、そっと育てていく。

その火が少しずつ大きくなったとき、子どもは自分の言葉で世界に手を伸ばし始めます。


 
 
 

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