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ダンス療育で育てる、ちょうどいい力加減

8月8日
読了時間: 5分

近くにいる相手へ、思いきり強く投げてしまう。遠くにいる相手へ、届かないほど弱く投げてしまう。そんな姿を見ると、大人はつい「もっと強く」「やさしく投げて」と言いたくなります。でもその子は、わざと間違えているのではなく、まだ自分のからだの力加減をうまく感じ取れていないだけかもしれません。


ボール投げが苦手な子は、意外とたくさんいます。

近い距離なのに強く投げすぎてしまったり、遠い距離なのにふわっと弱く投げてしまったり。相手に届かなかったり、逆に相手がびっくりするほど勢いが強かったりすることもあります。

こういう場面で大切なのは、「なぜできないの?」と責めることではありません。

まず見るべきなのは、その子が何に困っているのかです。

ボール投げが苦手といっても、苦手さの中身はいくつかに分けて考えることができます。ひとつは、相手までどれくらい距離があるのかを捉える力。いわゆる空間認知です。

もうひとつは、その距離に対してどれくらいの力で投げたらいいのかを調整する力です。

これは「固有感覚」と呼ばれる感覚に関わっています。自分のからだが今どこにあって、どのくらい力を入れると、どんなふうに動くのか。そうしたからだのコントロール力の土台になる感覚です。

この固有感覚に凸凹があると、「ちょうどいい力」がわかりにくくなります。

だから、近いのに強く投げてしまう。遠いのに弱く投げてしまう。本人の中では一生懸命やっているのに、結果として力加減がずれてしまうのです。

そんな子に対して、「もっと強く投げるんだよ」「なんでできないの」「強すぎる、やめて」と言い続けても、なかなか練習にはなりません。

むしろ、失敗した感覚だけが残ってしまうこともあります。


できないことを責めるより、できるようになる入口を変えてみる。

そこで活用できるのが、ダンスや音楽を使ったアプローチです。

ボール投げという動きは、よく見ると「フレー、フレー」と応援するような腕の動きにも似ています。腕を振る、力を入れる、力を抜く、速く動かす、ゆっくり動かす。こうした要素を、音楽に合わせて楽しく経験していくことができます。

「強く」

「やさしく」

「速く」

「ゆっくり」

こうした違いを、言葉だけで理解するのは難しい子もいます。でも、音楽の中でからだを動かしながら繰り返していくと、少しずつ感覚として入っていきます。

頭で覚えるというより、からだと脳で覚えていくのです。

はじめは、ただ楽しく動くだけでも十分です。音楽に合わせて腕を大きく振ったり、小さく振ったり。力いっぱい動かしたり、そっと動かしたり。テンポを変えながら、からだの中にいろいろな力加減を経験としてためていきます。

そのうえで、子どもにとってわかりやすい表現に置き換えていきます。

たとえば、「1の強さ」「3の強さ」「5の強さ」のように数字で表す方法があります。数字がわかりやすい子には、この段階づけがとても有効です。

また、動物に例えることもできます。

「アリさんの強さ」

「ウサギさんの強さ」

「ライオンの強さ」

このようにイメージしやすい言葉に変えることで、力の強弱がぐっと掴みやすくなります。

ただ「弱く投げて」と言われるよりも、「アリさんの強さで投げてみよう」と言われた方が、子どもはからだでイメージしやすいのです。

そして、ダンスの中で練習した力加減を、実際のボール投げにつなげていきます。

「今度は、ダンスでやったアリさんの強さで投げてみよう」

「次は、ウサギさんの強さで投げてみよう」

「少し遠いから、ライオンほどではないけど、ウサギさんより強めにしてみよう」

こうして、ただボール投げだけを繰り返すのではなく、楽しい経験の中で覚えた感覚を実際の場面に活用していきます。

すると、少しずつ相手との距離に合わせて投げる力を変えられるようになっていきます。強すぎたり弱すぎたりしていた投げ方が、だんだん「ちょうどいい」に近づいていくのです。

もちろん、一度で急にできるようになるわけではありません。

でも、楽しい中で何度も経験していると、子どもは失敗を怖がりにくくなります。「またやってみよう」と思えるようになります。その積み重ねの中で、いつの間にかできることが増えていきます。

ここで大事なのは、やはり「楽しい」ということです。

楽しくないことを、進んでやりたい人はなかなかいません。子どもにとっても同じです。苦手なことを苦手なまま真正面から繰り返すだけでは、練習そのものが嫌になってしまうことがあります。

でも、音楽があって、動きがあって、遊びがあって、笑いがあると、苦手なことへの入口が変わります。


「できた」は、楽しい経験の中でいちばん自然に育っていく。

ボール投げが苦手な子に必要なのは、厳しい反復だけではありません。

その子のからだが何に困っているのかを見て、空間の捉え方や力加減の感覚を、楽しく育てていくこと。ダンスや音楽を使いながら、強い・弱い、速い・ゆっくりを、からだで覚えていくこと。

そして、できた感覚を一つずつ増やしていくこと。

それが、エンタメ療法の大切なポイントです。

ボールを投げるという小さな動きの中にも、子どもの感覚や認知、からだのコントロールがたくさん詰まっています。だからこそ、できないところだけを見るのではなく、そこに向かう道のりを楽しくつくっていきたいのです。

「もっと強く」ではなく、「ウサギさんの強さで」。

「強すぎるよ」ではなく、「今度はアリさんでやってみよう」。

そんなふうに言葉と体験を変えていくことで、子どもは少しずつ、自分のからだと仲良くなっていきます。そして気づいたときには、相手に届くちょうどいい力で、ボールを投げられるようになっているのです。

 
 
 

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