top of page
検索

家を出る一歩が、未来につながるまで。就労移行支援開始

人は、突然動けなくなることがあります。昨日まで通えていた場所に足が向かなくなり、眠れなくなり、外に出ることさえ大きな壁になる。そんなとき本当に必要なのは、「頑張れ」という言葉ではなく、もう一度安心して人と関われる場所なのかもしれません。


心が元気になる場所から、もう一度はじまる


ラフダイのトレーニングの中で、改めて「環境」の大切さを感じる出来事がありました。

東京ラフダイに通ってくれている、高校を卒業した女の子がいます。彼女はこれまでB型の事業所で働いていました。けれど、そこでの人間関係に苦しさが生まれ、少しずつ通うことが難しくなってしまいました。

やがて、家から出ること自体も難しくなっていきました。

心がとても苦しい状態になっていて、眠れない日もある。そんな状況について、東京ラフダイのレッスンの際に、お父様とお母様からご相談をいただきました。

本来、ラフダイ就労移行支援スタートは栃木から始めていく予定でした。けれど、目の前に困っている子がいる。今、支援を必要としているご家族がいる。

状況が状況です。

だから今回、東京のその子から、ラフダイ就労移行支援をスタートすることにしました。

やると決めたら、やる。

まず必要なのは、いきなり「働く」ことではありません。いきなり何かを達成することでもありません。今の彼女にとって大切なのは、改めて信頼できる人たちと関わることです。

そして、家から出る習慣を少しずつ取り戻していくことです。

心が苦しいとき、人は外の世界に向かう力を失ってしまいます。行かなければいけないと頭ではわかっていても、体が動かない。頑張りたい気持ちはあっても、心がついてこない。

そういうときに、「本人の努力が足りない」と見るのは、あまりにも乱暴です。

人は、安心できる関係の中で回復していきます。信頼できる大人がいて、受け止めてくれるコミュニティがあって、少しずつ外に出るきっかけがある。その積み重ねの中で、心はようやく呼吸を取り戻していきます。


働きたいという意欲は、心が元気になって初めて湧いてくるものです。

この話をしていると、不登校や引きこもりになった小学生の子どもたちに対して、ラフダイの療育トレーニングで支援してきた日々を思い出します。

年齢は違っても、本質は同じです。

小学生でも、高校を卒業した子でも、大人でも、人は環境によって大きく変わります。傷つくこともあれば、回復することもある。自信を失うこともあれば、もう一度前を向けるようになることもある。

だからこそ、どんな環境に身を置くかはとても大切です。

そして、どんなコミュニティにつながるかも大切です。

安心できる場所があることで、心が少しずつ元気になる。心が元気になるから、「働きたい」「何かをしたい」「もう一度やってみたい」という意欲が生まれてくる。

意欲が生まれて、ようやく行動につながっていく。

この順番を、私たちは間違えてはいけないと思っています。

先に行動を求めすぎると、苦しんでいる人はさらに追い込まれてしまいます。「早く働かないと」「ちゃんとしないと」「普通に戻らないと」という言葉や空気が、その人の心をさらに固くしてしまうことがあります。

でも本当は、心が回復するには順番があります。

安心すること。

信頼できる人と関わること。

家から出る小さな習慣を作ること。

自分にもできるかもしれないと思えること。

そして、少しずつ次の一歩を踏み出すこと。

この一つひとつを、丁寧に支えていく必要があります。

もちろん、自分の力で立ち上がれる人もいます。自分で環境を変え、自分で気持ちを整え、自分で次の道を切り開ける人もいるでしょう。

でも、そうではない人もいます。

自分だけでは難しい時期がある。周りに支えてもらって初めて動き出せる人がいる。誰かが隣にいてくれることで、ようやく外に出られる日がある。

それでいいと思うのです。


自分でできる人もいれば、支えてもらうことでできる人もいる。どちらも、人が前に進む自然な形です。

今回の支援は、ただ就労につなげるためのものではありません。

もちろん、将来的に働くことは大切です。社会とつながること、自分の役割を持つこと、収入を得ること、自立に向かっていくこと。それらはその子の人生にとって大きな意味を持ちます。

けれど、その前に必要な土台があります。

まずは心が元気になること。信頼できる人たちと関わること。家から出る習慣を作ること。自分はひとりではないと感じられること。

そこからしか、本当の意味での「働く」は始まらないのだと思います。

ラフダイとして、今回の東京での就労移行支援スタートは、ひとつの大きな始まりです。もともとの予定とは違う形になりましたが、目の前の必要に応えることこそ、私たちが大切にしてきたことでもあります。

困っている子がいる。

苦しんでいる家族がいる。

そして、そこに私たちができることがある。

ならば、始める理由は十分です。

これから、彼女が少しずつ安心を取り戻し、外に出る習慣を作り、人と関わる力を回復していけるように、私たちはしっかりサポートしていきます。

焦らず、でも止まらずに。

人は環境で弱ることがあります。けれど同じように、環境によって元気を取り戻すこともできます。だから私たちは、もう一度歩き出すための場所をつくりたい。

働くことの前に、心が息を吹き返す場所を。

そしてその小さな一歩が、いつかその子自身の「やってみたい」につながっていくことを信じています。

 
 
 

最新記事

すべて表示
エンタメ就労支援で見えた、心と体のヘルプサイン

人生には、アクセルを踏み込みたい気持ちと、まだ体が追いついていない現実との間に、静かな葛藤が生まれる瞬間があります。心は未来へ向かって走り出しているのに、足はまだ昨日の場所に根を下ろしているような感覚。それはまるで、長い間止まっていた車を再び動かそうとするとき、エンジンはかかってもタイヤがすぐには回らない、あの感じに似ています。私たちの支援の現場で最近、まさにそんな瞬間がありました。それは、一人の

 
 
 
地域イベントがひらく福祉とエンタメ療育の架け橋

人は、知らないものを怖がる。けれど、光の当たる場所で踊る誰かを見ると、怖さは少しずつ形を失っていく。鹿沼の春、ステージの上で子どもたちの目がまっすぐに光ったとき、理解は理屈ではなく体験から始まるのだと、私ははっきり知った。 栃木県鹿沼市には、春のさつき祭りと秋の秋祭りという二つの大きな祭りがある。私たちはこの春、さつき祭りの「野外ステージ」と「室内ステージ」という二つの会場で、ラフダイダンスのパフ

 
 
 
楽しい療育の裏側にある、静かな設計図

子どもの成長は、まっすぐな線では進みません。できるようになったことがある一方で、新しい環境に入った途端に別の課題が見えてくることもあります。だからこそ、支援には「走り続ける力」だけでなく、ときどき立ち止まり、今どこにいるのかを一緒に確かめる時間が必要です。 モニタリングは、成長の現在地を確認する時間 福祉の事業所では、「モニタリング」という時間を大切にしています。 モニタリングと聞くと、バラエティ

 
 
 

コメント


bottom of page