top of page
検索

演劇療育で、相手に声を届ける意識を育てる

声を出す練習は、ただ大きな声を出せばいいわけではありません。大切なのは、その声が誰かに向かっていること。目の前の人に、あるいは少し離れた誰かの背中に、ちゃんと届くように声を出す。その感覚を、子どもたちは遊びの中で少しずつ覚えていきます。


今回は、演劇療育の中で行っている「背中にドン」というメニューを紹介します。

これは、子どもたちが声を相手に届けるための練習です。ただ発声するのではなく、「この人に向かって声を出す」「相手の背中まで声を届ける」というイメージを持ちながら行います。

アシスタントとして、子どもたちにも参加してもらいながら進めていきます。先生がまず見本を見せて、子どもたちに「ちょっと向こうを向いていてください」と伝えます。そして、声を届ける相手を決めます。

ポイントは、声をただ前に出すのではなく、相手の背中の奥にまで届くようなイメージを持つことです。

「背中にドン」と聞くと、少し強い言葉のように感じるかもしれません。でも実際には、力任せに声を出す練習ではありません。相手をよく見て、相手に向かって、声を届けようとする練習です。

演劇の中では、声はとても大切です。

けれど、声の大きさだけが大事なのではありません。誰に向かって話しているのか。どこに届けようとしているのか。その意識があるだけで、声の出方は変わっていきます。

子どもたちにとっても、それはとても大切な経験になります。

自分の声が相手に届く。相手がそれを受け取ってくれる。その感覚は、コミュニケーションの土台にもなります。声を出すことが苦手な子も、遊びの形になると、少しずつ自然に参加しやすくなります。

だからこの練習では、楽しさを大事にしています。

「練習しなさい」と言われると身構えてしまうことでも、遊びの中に入ると、子どもたちは自然に挑戦できます。声を届けること、相手に向かって表現すること、身体を使って伝えること。それらを一つひとつ、楽しみながら体験していきます。

最初は、先生が「この人に向かってやってみよう」と声をかけます。

そして子どもたちは、相手の背中に向かって声を出してみます。背中の奥に「ドン」と届くように。もちろん本当に押すわけではありません。声のエネルギーを、相手に向けて送るような感覚です。


声は、ただ出すものではなく、誰かに届けるものです。

この感覚がつかめてくると、子どもたちの声は少しずつ変わっていきます。

ただ大きい声ではなく、方向のある声になります。ぼんやりとした声ではなく、相手に向かう声になります。そこには、自分の存在を少し前に出すような力があります。

演劇療育の面白さは、こうした練習を「訓練」としてではなく、「遊び」として経験できるところにあります。

子どもたちは、楽しみながら声を出します。先生や友だちと一緒に笑いながら、相手に届けようとします。その中で、発声や表現だけでなく、人との関わり方も育っていきます。

「背中にドン」は、とてもシンプルな練習です。

でもその中には、声を出すこと、相手を意識すること、自分の思いを届けることが含まれています。演劇の技術でありながら、日常のコミュニケーションにもつながっている練習です。

子どもたちと一緒に楽しみながら、声を届ける。

それは、大きな舞台に立つためだけの練習ではありません。自分の声が誰かに届くという経験を重ねるための時間です。そしてその経験は、子どもたちの中に小さな自信として残っていきます。

 
 
 

最新記事

すべて表示
「共存」という未来を、福祉の現場からつくる

人は誰かと比べられた瞬間に、自分の可能性を小さく見積もってしまうことがあります。「できる人」と「できない人」、「支援する人」と「支援される人」。そうやって線を引くほど、私たちは本当は一緒に歩けるはずの道を見失っていくのかもしれません。だからこそ、私たちが大切にしたいのは、向き不向きではなく、前向きであることです。 向き不向きではなく、前向きに生きるために ラフダイという会社をつくるうえで、ずっと大

 
 
 
即レスが人間関係と仕事を軽くする

仕事が重くなる瞬間は、いつも大きな失敗から始まるわけではありません。たった一通の返信を後回しにすること。まだ判断できないから、忙しいから、相手に気を遣わせたくないから——そうやって小さなボールを手元に置いたままにするうちに、気づけば両手がふさがっていることがあります。 即レスは才能ではなく、信頼の習慣である 普段のトレーニングの中で、うまくいく人とうまくいかない人の違いを見ていると、ものすごくシン

 
 
 
働く力を取り戻すエンタメ就労支援

人は、ある日突然、前に進めなくなることがあります。朝になると涙が出て、家の外へ出ることさえ重たくなって、世界との距離が少しずつ遠くなっていく。けれど、その人の中で灯が消えたわけではありません。ただ、もう一度動き出すための時間と、そばで待ってくれる誰かが必要なだけなのだと思います。 “踊りたい”と言えた日 ラフ大の就労移行支援に通ってくれている利用者さんがいます。 通い始めて、今で3ヶ月目になります

 
 
 

コメント


bottom of page