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演劇療育の時間に生まれる、小さな「仲間になる力」

子どもたちの成長は、いつも大きな拍手の中で起きるわけではありません。ときには、レッスンの真ん中にある15分のおやつ休憩の中で、そっと芽を出します。「これ食べる?」「ちょうだい」「いいよ」「どこで買ったの?」——そんな何気ないやりとりの中に、実は舞台以上に大切な学びが隠れていることがあります。


おやつ休憩が、子どもたちの主体性を育てていた


ラブダイのトレーニングの中で、最近とても印象に残っている成功事例があります。

以前、ダンス療育では「振付ダンスがすごく楽しくて、家でも練習するようになりました。それをきっかけに宿題もやるようになったんです」という保護者様のお声をいただきました。

好きなことが生まれると、子どもは自分から動き出す。

これは、どの療育でも共通している大切な変化だと感じています。

今回は、その中でも演劇療育で見えてきた「主体性」について書いてみたいと思います。

東京ラブダイの演劇療育では、半年に1回、演劇の公演を行うようにしています。

その公演に向けて、毎週日曜日に2時間、みんなで集まってレッスンをします。

東京ラブダイの演劇クラスの特徴は、メンバーが固定されていることです。

いわゆるスクールのように、同じ仲間たちと継続的に顔を合わせ、同じ目標に向かって練習を重ねていきます。

この「固定のメンバーで積み上げていく」という環境が、演劇の力ととても相性がいいのです。

演劇は、一人では成立しません。

相手の言葉を聞くこと。

自分の出番を待つこと。

誰かの表情を受け取ること。

自分の気持ちを声や身体で表現すること。

舞台の上では、常に他者との関係が生まれています。

だからこそ、演劇療育では「みんなで作る」という体験そのものが、子どもたちにとって大きな学びになります。

ただ、2時間のレッスンは子どもたちにとって少し長い時間でもあります。

そこで東京ラブダイでは、真ん中に15分ほどのおやつ休憩を設けています。

みんなでお菓子を食べたり、交換したり、少しほっとしたりする時間です。

一見すると、ただの休憩時間に見えるかもしれません。

でも私は最近、この15分こそが、子どもたちの主体性を育むとても大切な時間になっていると感じています。

実際に、新しく入られた保護者様からも「この時間、すごくいいですね」というお声をいただきました。

その言葉を聞いて、改めて「ああ、やっぱりそうなんだ」と実感したのです。

ラブダイに通ってくる子どもたちの中には、他者への興味関心が少し弱かったり、自分の思いを伝えることに意識が向きやすかったりする子もいます。

もちろん、それは悪いことではありません。

ただ、円滑な関わりや、お友達作りに難しさを感じている子は少なくありません。

「一緒に遊ぼう」と言うこと。

「それ、いいね」と相手に関心を向けること。

「ちょうだい」「いいよ」とやりとりをすること。

こうした日常のコミュニケーションは、大人にとっては当たり前に見えても、子どもによってはとても大きな挑戦です。

レッスンの前半では、みんなで身体を動かし、演劇のワークを通して、いろいろな人と関わります。

声を出したり、動いたり、相手と目を合わせたり、場面に合わせて反応したりします。

それはもちろん、トレーニングとしてとても大切な時間です。

でもその後に訪れるおやつ休憩では、少し違う種類のコミュニケーションが生まれます。

1時間しっかり動いたあと、子どもたちは「はぁ」と少し力が抜けた状態になります。

その隣には、さっきまで一緒にレッスンをしていた友達がいます。

そして手元には、お菓子があります。

このお菓子が、自然なコミュニケーションツールになるのです。

「これ食べる?」

「ちょうだい」

「いいよ」

「僕のもあげるね」

「これ、どこで買ってきたの?」

「この前旅行に行って、お土産でもらったんだ」

「わー、すごい」

こうした何気ない会話が、子どもたちの間で少しずつ増えていきました。

先生が少しファシリテーターとして入りながら、会話のきっかけを作ることもあります。

でも、だんだんと子どもたち自身が、自分から話しかけたり、渡したり、受け取ったりするようになっていきます。

ここに、私はとても大切な主体性を感じています。

主体性というと、「自分で決める」「自分から行動する」というイメージが強いかもしれません。

もちろん、それも大切です。

でも本当の主体性は、ただ一人で前に進む力だけではないと思うのです。

誰かに関心を向けること。

自分から関係をつくろうとすること。

「一緒に食べよう」と言えること。

相手の反応を見て、もう一度声をかけてみること。

そうした小さな行動の積み重ねも、立派な主体性です。


主体性は、一人で強くなる力だけではなく、誰かと関わろうとする力の中にも育っていく。

おやつ休憩の時間がどんどんにぎやかになっていく様子を見ていると、本当にそう感じます。

最初は少し距離があった子どもたちが、少しずつお互いの存在に慣れていく。

お菓子をきっかけに会話が生まれる。

その会話の中で、相手のことを知る。

「この子はこれが好きなんだ」

「旅行に行ったんだ」

「このお菓子、前にも持ってきていたな」

そんな小さな発見が重なって、仲間意識が育っていきます。

そしてこの仲間意識は、演劇の時間にも返ってきます。

一緒に食べた相手とは、舞台の上でも少し関わりやすくなる。

声をかけやすくなる。

相手の表情を見やすくなる。

「この子と一緒にやっている」という感覚が、少しずつ身体の中に入っていくのです。

演劇は、みんなで作るものです。

だからこそ、台詞や動きの練習だけではなく、こうした余白の時間がとても大切になります。

子どもたちは、練習中だけでなく、休憩中にも関係を育てています。

そして、その関係があるからこそ、舞台の上で安心して表現できるようになります。

人間は、一人では生きていけません。

どれだけ自分の思いを持っていても、それを受け取ってくれる誰かがいることで、表現は初めて形になります。

どれだけ力があっても、誰かと一緒に作る経験がなければ、その力は広がっていきません。

演劇療育の強みは、まさにそこにあります。

一人ひとりの表現を大切にしながら、それを「みんなで作る」という体験につなげていけること。

そしてその過程で、子どもたちは自然と他者に関心を持ち、関わる楽しさを知っていきます。

「自分から関わってみたい」と思える場所があることは、子どもにとって大きな安心になる。

おやつ休憩は、ただの休憩ではありません。

子どもたちが肩の力を抜き、友達の存在を感じ、自分から一歩近づいてみる時間です。

そこには、台本には書かれていない学びがあります。

先生がすべてを指示するのではなく、子どもたち自身が「どうぞ」「ありがとう」「一緒に食べよう」を経験していく。

その中で、関係をつくる力が育っていく。

それはとても穏やかで、でも確かな成長です。

今回の気づきは、なんだかとてもほのぼのしたものかもしれません。

でも私は、こういう小さな場面にこそ、子どもたちの本質的な変化が表れると思っています。

舞台の上で堂々と台詞を言えるようになることも、もちろん素晴らしい。

でもその前に、隣の子に「これ食べる?」と言えるようになること。

誰かからもらったお菓子に「ありがとう」と返せること。

みんなで笑いながら同じ時間を過ごせること。

その一つひとつが、子どもたちにとって大切な舞台なのだと思います。

半年に1回の公演に向けて、私たちはこれからも練習を重ねていきます。

でもその道のりの中で育っているのは、演技力だけではありません。

誰かと関わる力。

仲間を感じる力。

自分から輪の中に入っていく力。

そして、「一緒にやるって楽しい」と思える心です。

おやつ休憩の15分は、きっとこれからもにぎやかになっていくと思います。

お菓子を交換する声、笑い声、少し照れた「ありがとう」。

その小さなやりとりの中で、子どもたちは今日も少しずつ、仲間になっていきます。

 
 
 

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