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演劇療育プログラムが育てる、伝わる力

子どもの顔を見ていて、「笑っているはずなのに、どこか表情が動いていない」と感じる瞬間があります。心がないわけではない。感情がないわけでもない。ただ、顔という小さな身体の一部が、まだその感情の出し方を知らないだけなのかもしれません。


表情は、顔の筋肉だけでなく心の窓でもある


表情が豊かな子は、感情表現が自然です。

嬉しいときに嬉しそうな顔をする。困ったときに困った顔をする。楽しいときに、顔全体でその楽しさが伝わる。

それは一見、性格の問題のように見えるかもしれません。明るい子、暗い子、表情がよく動く子、あまり動かない子。

でも実際には、もっと身体的な話でもあります。

顔も筋肉です。

表情が硬い子、暗く見える子、顔があまり動かない子は、必ずしも感情が乏しいわけではありません。ただ、表情筋の使い方がまだわかっていないことがあります。

心の中には動きがあるのに、それを顔に出す回路がうまくつながっていない。そんな状態です。

だから私は、表情を「気持ちの問題」だけで片づけないようにしています。

表情は、練習できます。

顔全体を動かすこと。目の周りを使うこと。ほっぺたを上げること。口角を動かすこと。

それらはすべて、筋肉の使い方です。

もちろん、最初からうまくできるわけではありません。特に現代の子どもたちは、顔の上半分が動きにくいことがあります。

目からほっぺたにかけての部分が、笑っているつもりでもあまり上がらない。

口だけで笑っているように見える。目がついてこない。顔全体がひとつの表情として連動しない。

でもそれは、できないというより、使っていないだけです。

使い方がわからない筋肉は、動きません。動かしてこなかった場所は、意識しにくい。

だから最初は、手を使います。

いきなり「顔全体で笑って」と言われても難しい。子どもにとっては、自分の顔のどこをどう動かせばいいのかがわからないからです。

だから、手でほっぺたを少し持ち上げてみる。口角を意識してみる。骨や筋肉の位置を感じながら、顔がどう動くのかを体験してみる。

そうやって、身体に教えていきます。

「ここが動くんだよ」

「ここを上げると、表情が変わるんだよ」

「顔は、自分で動かせるものなんだよ」

その感覚が入ってくると、少しずつ表情が変わっていきます。

よくあるのは、顔の片側だけが動いて、もう片側が動かないことです。

片方の口角は上がるけれど、もう片方は固まったまま。片側のほっぺたは反応するけれど、反対側は眠っているように見える。

でも、それも悪いことではありません。

そこに気づくことが最初の一歩です。

「こっちは動くけど、こっちは動かない」

その発見が、身体との対話になります。

表情筋トレーニングというと、美容や見た目のためのものだと思われるかもしれません。もちろん、顔がよく動くようになることで、印象は変わります。

でも本当に大事なのは、そこではありません。

表情が豊かになると、人とのコミュニケーションが取りやすくなります。

言葉より先に、顔が伝えてくれることがあります。安心していること。興味を持っていること。嬉しいこと。戸惑っていること。

表情は、相手に向けた小さなサインです。

そのサインが出せるようになると、周りの人も受け取りやすくなります。子ども自身も、自分の感情を外に出すことに慣れていきます。

表情を動かすことは、単に顔の筋肉を鍛えることではありません。

それは、自分の内側にあるものを外に出す練習です。

自分は今、嬉しいのか。楽しいのか。不安なのか。緊張しているのか。

その感情を、顔という身体の表面に少しずつ乗せていく。


表情は、心の中にあるものを世界に渡すための、いちばん小さな橋なのかもしれません。

もちろん、表情が少ないことを責める必要はありません。

「もっと笑いなさい」と言われても、笑えないときがあります。無理に明るい顔を作らされると、かえって苦しくなることもあります。

だから大切なのは、強制ではなく、気づきです。

顔は動かせる。表情は育てられる。感情を表す方法は、少しずつ身につけられる。

そのことを、身体で知っていくことです。

最初はぎこちなくてもいい。

手を添えながらでもいい。片側だけしか動かなくてもいい。目がついてこなくても、ほっぺたが上がらなくてもいい。

何度も動かしているうちに、顔は少しずつ思い出していきます。

「こうやって笑うんだ」

「こうやって伝えるんだ」

「自分の気持ちは、外に出してもいいんだ」

その変化は、とても小さいものかもしれません。

でも、子どもの表情がふっと動く瞬間があります。口だけではなく、目元やほっぺたまで少し持ち上がる瞬間。

そのとき、ただ顔が変わっただけではないように感じます。

内側と外側が、少しつながったように見えるのです。


使い方を知らなかった顔の筋肉が動き出すとき、感情もまた、少しずつ外の世界へ出ていく準備を始めます。

表情筋トレーニングは、難しいことではありません。

顔を意識すること。動かしてみること。手で助けてあげること。左右の違いに気づくこと。顔全体で表情を作る感覚を、少しずつ育てていくこと。

その積み重ねが、やがてコミュニケーションのしやすさにつながっていきます。

表情が豊かになるというのは、ただ明るく見えるようになることではありません。

自分の感情を、自分の身体を通して伝えられるようになることです。

硬い表情の奥には、まだ使われていない筋肉がある。まだ言葉になっていない感情がある。まだ外に出る方法を探している心がある。

だからこそ、顔を動かす練習には意味があります。

それは、子どもに「もっと笑いなさい」と言うことではなく、「あなたの中にあるものは、ちゃんと表に出していいんだよ」と身体で伝えることなのだと思います。

 
 
 

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