top of page
検索

「どうぞ」の一言から始まる療育

子どもが誰かに何かを手渡す瞬間には、思っている以上にたくさんのことが詰まっています。手を動かすこと、相手を見ること、言葉を添えること、そして「ありがとう」と返ってくる経験を受け取ること。いま準備しているキッチンカーでの体験療育は、ただかき氷を作るだけの時間ではありません。子どもたちが、自分の行動で誰かを喜ばせる感覚に出会うための、小さな社会の入口です。


キッチンカーが、療育の場所になる


普段の療育トレーニングの中で、子どもたちにとって本当に意味のある体験とは何だろう、とよく考えます。

机の上で練習することも大切です。指先を使うこと、順番を待つこと、相手の話を聞くこと、自分の気持ちを言葉にすること。どれも日々の積み重ねの中で育っていく力です。

でも、その力が実際の場面につながったとき、子どもたちの中で何かが大きく動くことがあります。

「できた」だけではなく、「自分がやったことで、誰かが喜んでくれた」という感覚。

その感覚をつくる場所として、いま私たちはキッチンカーでの体験療育を準備しています。

販売のためにキッチンカーを使うだけでは、少しもったいない。せっかくそこに実際の空間があり、人とのやり取りがあり、役割があり、商品を手渡す流れがあるのなら、これを療育に使わない手はないと思いました。

そこで始めようとしているのが、キッチンカーでの接客・製造体験です。


かき氷の中にある、三つの役割


キッチンカーの中での動きは、大きく分けると三つあります。

一つ目は、実際にかき氷を作ること。

二つ目は、そこにトッピングをして、お客様に渡すこと。

三つ目は、お金をいただき、その処理をすること。

この三つの役割を、三人がチームになって行うようなオペレーションを考えています。

もちろん、子どもたちが実際のお客様と本物のお金のやり取りをするのは、慎重に考える必要があります。そこは安全面や責任の面から、現実的にはそのまま行うのではなく、ラフダイコインのようなものをうまく活用していきます。

本物に近いけれど、安心して失敗できる環境。

これが療育ではとても大切です。

実際のキッチンカーを使いながら、接客のロールプレイをする。注文を聞く。かき氷を作る。トッピングをする。「どうぞ」と言って渡す。コインを受け取る。

一つひとつは小さな動作に見えるかもしれません。

でも、その中には子どもたちが社会の中で生きていくための、大切な要素がたくさん含まれています。


「どうぞ」の前にある、たくさんの練習


かき氷を作る工程ひとつを取っても、子どもたちにとっては大きな経験です。

使用する機械は、安全に配慮されたものを想定しています。スイッチを押すと動き、止めれば止まる。危なくない形で、自分の手で作る感覚を味わえるものです。

自分でスイッチを押して、氷が削られていくのを見る。

器に入ったかき氷にトッピングをする。

それを相手に渡す。

その一連の流れの中で、子どもたちは手先を使い、手順を理解し、相手を意識し、自分の役割を果たしていきます。

そして最後に、「ありがとう」と言われるかもしれない。

この瞬間が、とても大きいのです。


自分がしたことで、誰かが喜んでくれる。その経験は、子どもの中に静かな自信を残します。

療育の中で育てたいのは、単に作業ができる力だけではありません。

相手に喜んでもらうとはどういうことなのか。

自分の行動が相手に届くとはどういうことなのか。

そして、それを経験した自分はどんな気持ちになるのか。

そういう心の動きまで含めて、体験してほしいと思っています。


人との関わりが、少し楽しくなるために


人との関わりが苦手な子どもたちにとって、「接客」という言葉は少し大きく感じるかもしれません。

でも、接客を分解してみると、実は小さなやり取りの積み重ねです。

相手の方を見る。

声を出す。

順番を守る。

物を渡す。

受け取る。

お礼を言う。

お礼を言われる。

この一つひとつを、安全な環境で練習できることには大きな意味があります。

そして、そこに「楽しい」があることも大切です。

かき氷を作る。トッピングを選ぶ。誰かに渡す。喜んでもらう。

そういう体験の中で、人と関わることが少し楽しくなるかもしれません。

仕事をすることや、誰かの役に立つことが、自分にとって高揚感のあるものだと感じられるかもしれません。

もちろん、すぐにうまくできる必要はありません。

大切なのは、子どもたちが「やってみたい」と思えること。そして、「やってみたら楽しかった」と感じられることです。


アウトプットの前に、日々の積み重ねがある


キッチンカーでの体験は、いわばアウトプットの場です。

実際に練習してきたことを使ってみる場所。自分の中に育ってきた力を、外の世界に向けて出してみる場所です。

でも、そこに向かうまでには、日々のレッスンの中での積み重ねがあります。

細かい指先の動き。

物を持つ、置く、渡す。

順番を待つ。

相手の話を聞く。

簡単なやり取りをする。

手順を覚える。

チームの中で自分の役割を理解する。

これらを、ただバラバラに練習するのではなく、「キッチンカーでかき氷体験をやる」という目標につなげていきます。

今日はこの動きを練習しよう。

次はこのやり取りをやってみよう。

これとこれができるようになったから、今度はいよいよ実際の体験に行ってみよう。

そうやって、目標に向かう階段を作っていきます。


大きな成長は、いつも小さな階段の先にあります。

子どもたちが無理なく登れるように、スモールステップで進めること。

それぞれの子に合わせて、成功体験を積めるようにすること。

そして、練習そのものが楽しい時間になるように工夫すること。

そこを大切にしながら準備を進めています。


小さな社会の中で育つもの


キッチンカーは、ただの車ではありません。

そこには役割があります。

流れがあります。

相手がいます。

やり取りがあります。

そして、自分のしたことが誰かに届く瞬間があります。

子どもたちにとって、その場所は小さな社会になるのだと思います。

安全に守られた環境でありながら、実際の社会に近い体験ができる場所。練習してきたことが、目の前の人との関わりにつながる場所。

かき氷を作ること。

トッピングをすること。

「どうぞ」と渡すこと。

その一つひとつの中に、手先の成長も、コミュニケーションの練習も、自己肯定感も、誰かの役に立つ喜びも含まれています。

子どもたちがその体験を通して、「人と関わるって楽しいかもしれない」「自分にもできることがあるかもしれない」と感じてくれたら、それはとても大きな一歩です。

キッチンカーでの体験療育は、いよいよ始まります。

子どもたちがどんな表情でかき氷を作り、どんな声で「どうぞ」と言い、どんなふうに「ありがとう」を受け取るのか。

その瞬間を想像すると、今からとても楽しみです。

 
 
 

最新記事

すべて表示
就労支援ではなく人生の足場をつくる

人生には、進路をひとつ選んだだけでは終わらない時期があります。学校を卒業して、働き始めて、それでも「ここではないかもしれない」と立ち止まる瞬間がある。そんなときに必要なのは、正解を押しつける場所ではなく、もう一度息を整え、次の可能性を一緒に探せる場所なのだと思います。 「帰ってこられる場所」をつくるということ 2月、事業所の内装を自分たちで進めながら、4月のオープンに向けた準備が少しずつ現実味を帯

 
 
 
福祉と食と地域をひとつにするキッチンカー構想

地域には、まだ十分に磨かれていない宝物があります。畑で育ったいちご、働く人たちの昼食の声、福祉の現場にある小さな作業の力。その一つひとつを結び直すことで、ただ商品を売るだけではない、街に根ざした事業が生まれるのだと思います。 現在、私は発達障害の子どもたちに向けた自費のダンススクールを運営しています。 この事業が一通り安定してきた今、次に取り組みたいと考えているのが、鹿沼の特産品である「いちご」を

 
 
 

コメント


bottom of page