ラフダイが大切にする「F」と「T」
子どもが教室に入ってくる前から、療育はもう始まっているのだと思います。ドアを開ける前の空気、向かう道中の気持ち、「今日は楽しそう」と思える予感。行動だけを見ると見落としてしまうものが、その手前にあります。ラフダイのエンタメ療育では、そこをとても大切にしています。
ABC分析の前にある「F」と「T」
療育の現場では、ABA、つまり応用行動分析という言葉をよく耳にします。
その中でもよく使われるのが、ABC分析です。
Aは先行刺激、Bは行動、Cは後続刺激。
簡単に言えば、「こんな状況で、こんな行動をしたら、こんな結果になった」という流れを整理していく考え方です。
たとえば、ある場面で子どもが不安定になったとします。
そのとき、直前に何があったのか。
どんな行動が起きたのか。
その後、周囲はどう対応したのか。
そこを分析することで、次に同じことが起きにくいように事前対応を考えたり、起きた後の関わり方を整えたりしていきます。
これはとても大切な視点です。
多くの療育現場でも取り入れられていると思います。
ただ、ラフダイではこのABCの前に、もう少しだけ別の視点を置いています。
それが「F」と「T」です。
Fは、Feel。
まず、感じること。
Tは、Think。
そこから、考えること。
つまり、A・B・Cの前に、子どもはすでに何かを感じ、何かを考えているということです。
行動が起きる前に、心の中ではもう物語が始まっている。
「なんかここ、不安だな」
「嫌な感じがするな」
「雰囲気が悪いな」
「どうしようかな」
「行きたくないな」
こうした感覚や思考があって、その先に行動が出てきます。
だから私たちは、ABCだけを見るのではなく、その前段階にあるFとTをとても大切にしています。
失敗は、行動の前に起きていることがある
子どもがうまく活動に入れなかった。
レッスン中に気持ちが崩れてしまった。
こちらが準備したプログラムに乗れなかった。
そういうとき、もちろんABCで整理することはできます。
どんな環境だったのか。
どんな声かけをしたのか。
どんな行動が出たのか。
その後どうなったのか。
でも実際には、そのもっと手前でつまずいているケースが多いと感じています。
教室に来る前から、もう気持ちが重かった。
その活動に対して、不安なイメージを持っていた。
「またできないかもしれない」と思っていた。
「今日は嫌だな」と感じていた。
そうなると、Aの時点でこちらが何を用意しても、すでにスタート地点が苦しいのです。
逆に言えば、FとTを整えることができれば、その後のABCはうまく流れやすくなります。
活動そのものを変える前に、子どもがどう感じているか。
指示の出し方を変える前に、子どもがどう受け取っているか。
行動を修正する前に、その子の中でどんな予感が生まれているか。
そこに目を向けることで、療育は大きく変わります。
この感覚を考えるとき、私はよくディズニーランドを思い浮かべます。
ディズニーランドは、ゲートをくぐってから急に楽しくなるわけではありません。
行く何日も前から、CMを見たり、話題にしたり、予定を立てたりする。
電車に乗れば、少しずつその世界観に近づいていく。
駅に着いた瞬間から、すでに空気が変わっている。
入園する前から、「楽しい」が始まっているのです。
だから人は、そこに向かう段階でワクワクしています。
「行きたいな」と感じている。
「楽しそうだな」と考えている。
このFとTがプラスに働いているからこそ、実際の体験も楽しくなりやすい。
もちろん療育とテーマパークは違います。
でも、人の心の動きとしてはとても参考になります。
楽しいと感じている場所には、入りやすい。
安心できると感じている人の話は、聞きやすい。
「できそう」と思える活動には、挑戦しやすい。
これは子どもに限った話ではありません。
大人でも同じです。
療育は「来る前」から設計できる
ラフダイのエンタメ療育では、子どもが実際にレッスンに参加する前から、「行きたいな」と思えるような関わりを意識しています。
その日のプログラムだけを考えるのではなく、そこに向かう気持ちも含めて設計する。
教室に来る前の期待。
入った瞬間の雰囲気。
先生との関係性。
最初の声かけ。
場の空気。
安心感。
こうしたものが、FとTに影響します。
「今日は何をさせられるんだろう」ではなく、
「今日は何があるんだろう」。
「失敗したら嫌だな」ではなく、
「ちょっとやってみたいな」。
この違いは、とても大きいです。
子どもの行動を変えたいなら、まず子どもの中に生まれる予感を変える必要がある。
エンタメ療育というと、ただ楽しくすることだと思われるかもしれません。
でも、私たちが考えているエンタメは、単なる盛り上げではありません。
子どもの心が前向きに動き出すための設計です。
不安や緊張をできるだけ減らし、安心や期待を増やす。
そのうえで初めて、プログラムが意味を持ちます。
ABCを活かすために、FTを見る
ABAやABC分析は、もちろん大切です。
ただ、ABCだけを見ていると、行動が起きた後の整理に意識が向きやすくなります。
なぜその行動が起きたのか。
どうすれば減らせるのか。
どう対応すればよいのか。
それも必要です。
でもラフダイでは、その前に「その子は何を感じていたのか」「何を考えていたのか」を見ます。
FとTが不安や拒否感でいっぱいのままでは、どれだけ良いプログラムを用意しても届きにくい。
反対に、FとTが安心や期待に向かっていれば、同じプログラムでも受け取り方が変わります。
同じ声かけでも、入り方が変わります。
同じチャレンジでも、「やってみようかな」に変わることがあります。
だから、私たちはABCの前にFTを置きます。
Feel。
Think。
Antecedent。
Behavior。
Consequence。
感じて、考えて、状況があり、行動が起き、結果が返ってくる。
この流れで見ると、子どもの姿がより立体的に見えてきます。
スタート地点を変えるということ
療育の中で大切なのは、子どもを無理やり動かすことではありません。
その子が動き出しやすいスタート地点をつくることです。
最初から不安な場所に立たせて、「頑張って」と言うのか。
それとも、安心できる空気をつくってから、「一緒にやってみよう」と誘うのか。
結果は大きく変わります。
もちろん、すべてがうまくいくわけではありません。
子どもによって感じ方も違います。
同じ子でも、その日の体調や気分によって受け取り方は変わります。
だからこそ、毎回見る必要があります。
今、この子は何を感じているのか。
何を考えているのか。
この場は、この子にとって安心できる場所になっているのか。
それとも、すでに警戒する場所になってしまっているのか。
そこに気づけるかどうかで、関わり方は変わります。
「楽しい」は、療育の入口になる
ラフダイがエンタメ療育を大切にしている理由は、ここにあります。
楽しいことは、軽いことではありません。
楽しいという感覚は、人が前に進むための大切な入口です。
子どもが「行きたい」と思える。
「またやりたい」と感じられる。
「ここなら大丈夫」と思える。
その気持ちがあるから、挑戦が生まれます。
その安心があるから、失敗しても戻ってこられます。
その期待があるから、新しい行動につながります。
療育は、行動だけを扱うものではありません。
行動の前にある感情。
感情の後に生まれる思考。
そして、その子が世界をどう受け取っているか。
そこまで含めて見ていくことが、子どもにとって本当に意味のある支援につながるのだと思います。
ABC分析の前に、FとTを見る。
それは特別なテクニックというより、子どもを一人の人として見るための姿勢です。
何をしたかだけではなく、何を感じていたのか。
どう動いたかだけではなく、どう考えていたのか。
その手前に寄り添うことで、療育のスタート地点は変わります。
そしてスタート地点が変われば、その先の行動も、経験も、成長の形も変わっていきます。

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