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無視ではなく、見ていることが伝わる療育

3 日前
読了時間: 6分

子どもがわざと困らせるようなことをするとき、大人はつい「やめなさい」と言いたくなります。けれど、その一言が、子どもにとっては「見てもらえた」というご褒美になってしまうことがあります。大切なのは、反応しないことではなく、どの瞬間に反応するかです。


試し行動に反応しない、でも見捨てない

最近、試し行動についての相談が増えています。

「急に増えてきたんです」

「前はこんなにしなかったのに」

「わざと困らせているように見えるんです」

特に1月頃のような時期には、こうした“暴走”に近い行動について聞くことが多くなります。生活リズムの変化、疲れ、環境の切り替わり、気持ちの揺れ。子どもの中で何かが少しずつ溜まり、それが行動として表に出てくることがあります。

ただ、「試し行動」と一言で言っても、背景は一つではありません。

大きく分けると、二つのパターンがあります。

一つは、本当に大人の気を引きたい場合。

もう一つは、自分の中にある不安やストレスの吐き出し方がわからず、その折り合いをつけるために行動で表現している場合です。

後者の場合は、まず安心感やストレスの理解、環境調整が必要になります。行動だけを見て対応すると、本当に困っているサインを見落としてしまうことがあります。

今回扱いたいのは、前者です。

つまり、「気を引きたい」という目的で出ている試し行動への対応です。

ここで大切になるのが、ABAの考え方です。良い行動を強化し、望ましくない行動は強化しない。言葉にするとシンプルですが、現場で実践するにはかなり繊細な観察が必要になります。

そして、ここでよく誤解されるポイントがあります。

「消去する」とは、ただ無視することではありません。

望ましくない行動をしているときに、過剰に反応しない。けれど、良い行動になった瞬間には、すぐに反応する。ここが一番大切です。

悪い行動をしているときに反応しないのは、「あなたを見ていない」という意味ではありません。

むしろ、ずっと見ています。

見ているからこそ、良い行動に切り替わった一瞬を逃さない。その瞬間に、「今の行動は正しいよ」と伝える。これが本当の意味での介入です。

たとえば、子どもが「うんち、うんち」と言い続けている場面があるとします。

大人としては、つい言いたくなります。

「そんな汚い言葉言わないの」

「やめなさい」

「うんちなんて言いません」

でも、この反応そのものが、子どもにとっては強化になってしまうことがあります。

「言ったら見てもらえた」

「言ったら大人が反応した」

「言ったら場が動いた」

そうなると、その行動は減るどころか、むしろ増えていきます。

だから、「うんち、うんち」と言っている間は、あえて大きく反応しません。

もちろん、放置しているわけではありません。観察しています。次の瞬間を待っています。

子どもも息が続くわけではありません。

「うんち、うんち……」

その言葉が止まった一瞬。

その瞬間に、パッと見てあげる。

「静かにお話聞けてるね」

「今、ちゃんと聞けてたね」

「いい姿勢でいられたね」

このタイミングが大事です。

望ましくない行動に反応するのではなく、望ましい行動が出た瞬間に反応する。

ここで子どもは学びます。

「この行動をしたら見てもらえるんだ」

「こういう姿を大人は認めてくれるんだ」

「こっちの方法で関われるんだ」

子どもの行動は、反応によって形づくられていきます。

だからこそ、大人の反応はとても大きな意味を持ちます。

子どもは、叱られた内容よりも、「どの行動で大人が動いたか」を覚えていることがあります。

試し行動が強く出ているとき、私たちはつい“やめさせること”に意識が向きます。

でも、本当に大事なのは、減らしたい行動に注目することではなく、増やしたい行動を見つけることです。

悪い行動を削るだけでは、子どもの中に空白ができます。

その空白に、良い行動を入れていく必要があります。

静かに聞けた。

順番を待てた。

変な言葉を言わずに過ごせた。

先生の目を見られた。

座っていられた。

友だちの話を邪魔しなかった。

こうした小さな良い行動を見逃さずに拾うこと。

それを瞬時に褒めること。

この積み重ねによって、子どもの中で「どうすれば見てもらえるのか」が変わっていきます。

ラフダイの療育トレーニングでは、これを小集団の中で行っています。

小集団だからこそ、子ども一人ひとりの行動を細かく観察できます。先生たちがしっかり見て、必要なタイミングで介入し、良い行動が出た瞬間にアプローチすることができます。

これは、小集団ならではの大きなメリットの一つです。

大人数の中では、どうしても見逃してしまう瞬間があります。けれど、試し行動への対応では、その一瞬がとても重要です。

言葉が止まった瞬間。

姿勢が戻った瞬間。

目線が合った瞬間。

少しだけ我慢できた瞬間。

そこを見逃さずに拾えるかどうかで、行動の変化は大きく変わってきます。

そして、もう一つ大事なのが、エンタメの力です。

療育というと、どうしても「正しく教える」「直す」「改善する」というイメージが強くなりがちです。でも、子どもにとって本当に入りやすいのは、楽しいことです。

楽しいから参加できる。

楽しいからもう一回やってみたくなる。

楽しいから先生の声が届く。

楽しいから良い行動が自然に増えていく。

エンタメの力は、子どもの心を開く力でもあります。

こちらがどれだけ正しいことを言っても、子どもがこちらを見ていなければ届きません。けれど、楽しい空間の中であれば、子どもは自然と関わりに入ってきます。

その中で、良い行動を見つける。

その中で、望ましい関わり方を強化していく。

それが、私たちが大切にしているトレーニングの一つです。

「無視する」のではなく、「良い瞬間を待てる大人」でいること。

試し行動は、大人にとって本当にしんどいものです。

何度も同じことを言われたり、場を乱されたり、わざと困ることをされたりすると、冷静でいることが難しくなります。つい反応したくなります。つい注意したくなります。

でも、その行動の裏に「見てほしい」があるなら、私たちができることは、見方を変えることです。

困った行動を見ないのではありません。

その子が本当に身につけてほしい行動を、もっとよく見るのです。

そして、その行動が出た瞬間に伝える。

「今のいいね」

「それでいいよ」

「ちゃんとできてるよ」

子どもは、その反応を頼りに次の行動を選んでいきます。

だから、試し行動への対応は、我慢比べではありません。

大人がどれだけ無視できるかの勝負でもありません。

それは、子どもの中にある「見てほしい」という気持ちを、よりよい行動へつなげていく関わりです。

悪い行動を減らすことだけを目指すのではなく、良い行動が増える環境をつくること。

そのためには、大人が落ち着いて観察し、瞬間を見逃さず、適切に反応する必要があります。

子どもは、毎日少しずつ学んでいます。

「こうすれば叱られる」ではなく、

「こうすれば認められる」へ。

「困らせれば見てもらえる」ではなく、

「良い関わり方でも見てもらえる」へ。

その道筋をつくるのが、療育の大事な役割だと思っています。

試し行動が増えているときほど、子どもは何かを探っています。どこまで許されるのか。どうすれば関われるのか。自分は見てもらえているのか。

だからこそ、こちらも感情だけで返さず、丁寧に見ていきたい。

反応しない勇気と、褒めるタイミングを逃さない集中力。

その両方があってはじめて、子どもの行動は少しずつ変わっていきます。

 
 
 

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