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療育現場で学んだ、魔法の言葉

何か新しいことを任されたとき、私たちはすぐに自分の中の「できない理由」を探してしまうことがあります。経験がない、向いていない、失敗しそう、周りに迷惑をかけそう。けれど、その不安の最後にたった一言を足すだけで、心の向きが変わることがあります。私にとってそれは、「今はね」という言葉でした。


「今はね」が人生を前に進める


普段のトレーニングや現場の中で、うまくいった対応や、子どもたちとの関わりから学んだことを振り返る機会があります。

その中でも、私自身が仕事をするうえで何度も助けられてきた言葉があります。

それが、「今はね」です。

とても短い言葉です。けれど、私はこの言葉を、ほとんど魔法の言葉のように感じています。

私たちが取り組んでいるエンタメ療育には、会社として大切にしている考え方があります。

「向き不向きではなく、前向きに。」

この言葉はきれいごとに聞こえるかもしれません。でも、現場に立っていると、これは本当に大事な姿勢だと感じます。

なぜなら、私たちがやっていることは、少し特殊だからです。

エンタメの要素を取り入れながら、子どもたちの成長や表現を支えていく。演劇、表現、コミュニケーション、身体の使い方、場の空気を読む力。いろいろなものが混ざっています。

だからこそ、スタッフの中にも必ず壁にぶつかる瞬間があります。

「そんなこと、私にはできません」

「僕には難しいです」

「演劇なんてやったことないです」

そう思うのは、まったく自然なことです。

新しいことに向き合うとき、人はまず自分の足りない部分を見ます。経験がない。知識がない。自信がない。失敗するかもしれない。

でも、そこで終わってしまうのか。

それとも、そこから始められるのか。

その分かれ道にあるのが、「今はね」という言葉だと思っています。

「演劇なんてやったことないから、できないです」

その言葉に、「今はね」とつけてみる。

「演劇なんてやったことないから、できないです。今はね。」

それだけで、少しだけ意味が変わります。

できないことを否定しているのではありません。無理やりポジティブになれと言っているのでもありません。

今の自分には、たしかにできない。

それをまず認める。

でも、それは一生できないという意味ではない。

「今はね」と言うことで、できない自分を責める言葉が、これから変わっていける自分への言葉に変わるのです。


「今はできない」は、終わりの言葉ではなく、始まりの言葉にできる。

私自身も、もともと何でもできたわけではありません。

小さい頃から流暢にしゃべれたわけでもありません。学生時代も、今のように話せていたわけではありませんでした。

空気を読むのも得意ではありませんでした。

仕事が早いわけでもありませんでした。

ミスもたくさんしました。

そして、ハゲてもいます。

こうやって少し笑いにできますが、当時の自分にとっては、できないことや足りないことはちゃんと重たかったのです。

自分は向いていないんじゃないか。

あの人みたいにはなれないんじゃないか。

そもそも自分には無理なんじゃないか。

そんなふうに思う場面は、何度もありました。

そのたびに、面倒を見てくれる先輩や、周りの人たちにいろいろ教えてもらいました。

その中で、特に自分に刺さったのが、「今はね」という考え方でした。

ネガティブな言葉に、この一言をつける。

「できない。今はね。」

「わからない。今はね。」

「自信がない。今はね。」

「うまく話せない。今はね。」

そうすると、不思議と自分を責めるだけだった言葉に、余白が生まれます。

まだ終わっていない。

まだ決まっていない。

まだ伸びしろがある。

そう思えるようになります。

大事なのは、「できない」と言わないことではありません。

むしろ、できないことを素直に受け止めることです。

ここが、この言葉の神髄だと思っています。

人は「できない」と感じるとき、つい防御したくなります。

自分には向いていないから。

やったことがないから。

教わっていないから。

苦手だから。

そう言ってしまえば、その場では少し楽になります。挑戦しなくていい理由ができます。失敗しなくて済むかもしれません。

でも、それは同時に、自分の可能性にもフタをしてしまうことがあります。

一方で、「今はね」と言える人は、少し違います。

できない自分を認めています。

でも、その自分を見捨ててはいません。

「今はできない。だから、今からできるように頑張ろう」

この順番が、とても大切なのです。

自分の現在地を素直に受け止める。

そのうえで、今日できることを一つやる。

一日一分でもいい。

十分でもいい。

一時間できる日があるなら、それでもいい。

勉強する。練習する。人に聞く。メモを取る。もう一度やってみる。

そうやって、今から積み上げていけばいいのです。

私自身、会社を立ち上げるときにも同じでした。

会社を起こした経験なんて、もちろんありませんでした。

社長という存在を見て、「あんなふうになれたらいいな」と思うことはあっても、自分がそこに立てるとは最初から思えませんでした。

数字のこともわからない。

経営のこともわからない。

仕組みも、責任も、人を雇うことも、知らないことばかりでした。

「自分には無理かもしれない」

そう思う場面は、当然ありました。

でも、そこで「今はね」と言ってみる。

数字はわからない。今はね。

経営はわからない。今はね。

社長らしくできない。今はね。

そうすると、わからないことが恥ではなくなります。

学ぶ理由になります。

できないことが欠点ではなくなります。

始める場所になります。


できない自分を認めることは、あきらめることではない。そこから育てると決めることです。

仕事でも、療育でも、人との関わりでも、この考え方はとても大切です。

「向き不向きではなく、前向きに」という言葉は、全員が何でもすぐにできるようになるという意味ではありません。

得意不得意はあります。

時間がかかることもあります。

どうしても苦手なこともあります。

でも、「向いていないから終わり」と決める前に、「今はね」と一度置いてみる。

それだけで、目の前の課題との距離感が変わります。

できない自分を責めるのではなく、できるようになるために何をすればいいかを考えられる。

不安で固まるのではなく、小さく動き出せる。

その小さな前向きさが、現場では本当に大きな力になります。

子どもたちと関わっていると、成長は一直線ではないことを何度も感じます。

昨日できたことが今日はできないこともあります。

すぐに変わる子もいれば、時間をかけてゆっくり開いていく子もいます。

でも、こちらが「この子はできない」と決めてしまったら、その瞬間に見えなくなるものがあります。

「今はね」と思えるかどうか。

今は難しい。

今は言葉にできない。

今は気持ちを表現できない。

今は輪に入れない。

でも、今から少しずつできることがある。

そう信じることは、相手を甘やかすことではありません。

相手の現在地を見ながら、未来の余白を残すことです。

そしてそれは、子どもたちだけではなく、私たち大人にも必要なまなざしだと思います。

新しい仕事を覚えるとき。

人前に立つとき。

苦手な人と向き合うとき。

自分の弱さを見つけたとき。

そこで出てくる「無理です」「できません」「わかりません」に、「今はね」と足してみる。

たったそれだけで、言葉の向きが変わります。

言葉の向きが変わると、心の向きも少し変わります。

心の向きが変わると、行動が変わります。

そして行動が変わると、いつの間にか「できない」と思っていたことが、少しずつできるようになっていきます。

もちろん、魔法の言葉と言っても、唱えた瞬間に何でもできるようになるわけではありません。

でも、自分を止めていた言葉を、自分を進ませる言葉に変えることはできます。

それだけでも、十分に魔法のような力があると思うのです。

「できない」

その言葉が出てきたら、責めなくていい。

ごまかさなくてもいい。

ただ、最後に少しだけ足してみる。

「今はね」

そこから始めればいい。

今はできない。

でも、今からできるようになればいい。

その小さな言葉が、今日の自分を少し前に進めてくれるのだと思います。

 
 
 

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