療育現場で学んだ、魔法の言葉
- roughdiamondssince

- 1 日前
- 読了時間: 7分
何か新しいことを任されたとき、私たちはすぐに自分の中の「できない理由」を探してしまうことがあります。経験がない、向いていない、失敗しそう、周りに迷惑をかけそう。けれど、その不安の最後にたった一言を足すだけで、心の向きが変わることがあります。私にとってそれは、「今はね」という言葉でした。
「今はね」が人生を前に進める
普段のトレーニングや現場の中で、うまくいった対応や、子どもたちとの関わりから学んだことを振り返る機会があります。
その中でも、私自身が仕事をするうえで何度も助けられてきた言葉があります。
それが、「今はね」です。
とても短い言葉です。けれど、私はこの言葉を、ほとんど魔法の言葉のように感じています。
私たちが取り組んでいるエンタメ療育には、会社として大切にしている考え方があります。
「向き不向きではなく、前向きに。」
この言葉はきれいごとに聞こえるかもしれません。でも、現場に立っていると、これは本当に大事な姿勢だと感じます。
なぜなら、私たちがやっていることは、少し特殊だからです。
エンタメの要素を取り入れながら、子どもたちの成長や表現を支えていく。演劇、表現、コミュニケーション、身体の使い方、場の空気を読む力。いろいろなものが混ざっています。
だからこそ、スタッフの中にも必ず壁にぶつかる瞬間があります。
「そんなこと、私にはできません」
「僕には難しいです」
「演劇なんてやったことないです」
そう思うのは、まったく自然なことです。
新しいことに向き合うとき、人はまず自分の足りない部分を見ます。経験がない。知識がない。自信がない。失敗するかもしれない。
でも、そこで終わってしまうのか。
それとも、そこから始められるのか。
その分かれ道にあるのが、「今はね」という言葉だと思っています。
「演劇なんてやったことないから、できないです」
その言葉に、「今はね」とつけてみる。
「演劇なんてやったことないから、できないです。今はね。」
それだけで、少しだけ意味が変わります。
できないことを否定しているのではありません。無理やりポジティブになれと言っているのでもありません。
今の自分には、たしかにできない。
それをまず認める。
でも、それは一生できないという意味ではない。
「今はね」と言うことで、できない自分を責める言葉が、これから変わっていける自分への言葉に変わるのです。
「今はできない」は、終わりの言葉ではなく、始まりの言葉にできる。
私自身も、もともと何でもできたわけではありません。
小さい頃から流暢にしゃべれたわけでもありません。学生時代も、今のように話せていたわけではありませんでした。
空気を読むのも得意ではありませんでした。
仕事が早いわけでもありませんでした。
ミスもたくさんしました。
そして、ハゲてもいます。
こうやって少し笑いにできますが、当時の自分にとっては、できないことや足りないことはちゃんと重たかったのです。
自分は向いていないんじゃないか。
あの人みたいにはなれないんじゃないか。
そもそも自分には無理なんじゃないか。
そんなふうに思う場面は、何度もありました。
そのたびに、面倒を見てくれる先輩や、周りの人たちにいろいろ教えてもらいました。
その中で、特に自分に刺さったのが、「今はね」という考え方でした。
ネガティブな言葉に、この一言をつける。
「できない。今はね。」
「わからない。今はね。」
「自信がない。今はね。」
「うまく話せない。今はね。」
そうすると、不思議と自分を責めるだけだった言葉に、余白が生まれます。
まだ終わっていない。
まだ決まっていない。
まだ伸びしろがある。
そう思えるようになります。
大事なのは、「できない」と言わないことではありません。
むしろ、できないことを素直に受け止めることです。
ここが、この言葉の神髄だと思っています。
人は「できない」と感じるとき、つい防御したくなります。
自分には向いていないから。
やったことがないから。
教わっていないから。
苦手だから。
そう言ってしまえば、その場では少し楽になります。挑戦しなくていい理由ができます。失敗しなくて済むかもしれません。
でも、それは同時に、自分の可能性にもフタをしてしまうことがあります。
一方で、「今はね」と言える人は、少し違います。
できない自分を認めています。
でも、その自分を見捨ててはいません。
「今はできない。だから、今からできるように頑張ろう」
この順番が、とても大切なのです。
自分の現在地を素直に受け止める。
そのうえで、今日できることを一つやる。
一日一分でもいい。
十分でもいい。
一時間できる日があるなら、それでもいい。
勉強する。練習する。人に聞く。メモを取る。もう一度やってみる。
そうやって、今から積み上げていけばいいのです。
私自身、会社を立ち上げるときにも同じでした。
会社を起こした経験なんて、もちろんありませんでした。
社長という存在を見て、「あんなふうになれたらいいな」と思うことはあっても、自分がそこに立てるとは最初から思えませんでした。
数字のこともわからない。
経営のこともわからない。
仕組みも、責任も、人を雇うことも、知らないことばかりでした。
「自分には無理かもしれない」
そう思う場面は、当然ありました。
でも、そこで「今はね」と言ってみる。
数字はわからない。今はね。
経営はわからない。今はね。
社長らしくできない。今はね。
そうすると、わからないことが恥ではなくなります。
学ぶ理由になります。
できないことが欠点ではなくなります。
始める場所になります。
できない自分を認めることは、あきらめることではない。そこから育てると決めることです。
仕事でも、療育でも、人との関わりでも、この考え方はとても大切です。
「向き不向きではなく、前向きに」という言葉は、全員が何でもすぐにできるようになるという意味ではありません。
得意不得意はあります。
時間がかかることもあります。
どうしても苦手なこともあります。
でも、「向いていないから終わり」と決める前に、「今はね」と一度置いてみる。
それだけで、目の前の課題との距離感が変わります。
できない自分を責めるのではなく、できるようになるために何をすればいいかを考えられる。
不安で固まるのではなく、小さく動き出せる。
その小さな前向きさが、現場では本当に大きな力になります。
子どもたちと関わっていると、成長は一直線ではないことを何度も感じます。
昨日できたことが今日はできないこともあります。
すぐに変わる子もいれば、時間をかけてゆっくり開いていく子もいます。
でも、こちらが「この子はできない」と決めてしまったら、その瞬間に見えなくなるものがあります。
「今はね」と思えるかどうか。
今は難しい。
今は言葉にできない。
今は気持ちを表現できない。
今は輪に入れない。
でも、今から少しずつできることがある。
そう信じることは、相手を甘やかすことではありません。
相手の現在地を見ながら、未来の余白を残すことです。
そしてそれは、子どもたちだけではなく、私たち大人にも必要なまなざしだと思います。
新しい仕事を覚えるとき。
人前に立つとき。
苦手な人と向き合うとき。
自分の弱さを見つけたとき。
そこで出てくる「無理です」「できません」「わかりません」に、「今はね」と足してみる。
たったそれだけで、言葉の向きが変わります。
言葉の向きが変わると、心の向きも少し変わります。
心の向きが変わると、行動が変わります。
そして行動が変わると、いつの間にか「できない」と思っていたことが、少しずつできるようになっていきます。
もちろん、魔法の言葉と言っても、唱えた瞬間に何でもできるようになるわけではありません。
でも、自分を止めていた言葉を、自分を進ませる言葉に変えることはできます。
それだけでも、十分に魔法のような力があると思うのです。
「できない」
その言葉が出てきたら、責めなくていい。
ごまかさなくてもいい。
ただ、最後に少しだけ足してみる。
「今はね」
そこから始めればいい。
今はできない。
でも、今からできるようになればいい。
その小さな言葉が、今日の自分を少し前に進めてくれるのだと思います。
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